活字を愛し、活字に愛された弁護士の本棚

or: How I Learned to Stop Worrying and Love the "Words"

AI新時代、奪われるヒトの仕事 執筆・接客代替、弁護士ですら置き換わる?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160605-00000000-fsi-bus_allより

 

 AIが仕事を奪うというトピックももう聞き飽きた感もあるのですが、重要なことは仕事需要のトレンドがどこで変わるのかという見極めと、お金の流れがどうなるか、ということだと思います。

 

まず、AI、というかコードを書かなくても自己学習してくれるシステム自体は、個人レベルでも導入可能です。

参考:http://andoo.hatenablog.com/embed/deeplearning_kabu

 

で、例えばモノクロ映画に着色する技術を例に取ると、仕事のレベルは以下のように分類できます。

 

1)人が手でフィルムに着色していた

2)フィルムがデジタルになり、色指定すれば着色可能になった

3)レタッチソフトである程度自動で着色できるようになった

4)AIが着色してくれるようになり、人はおかしい部分を訂正すればよくなった

5)人が訂正すること自体不要になり、全くの素人が使える着色ソフトが安価で手に入るようになった

6)5)のソフトが無料(かほぼ無料に近い価格)になった

 

で、6)のレベルにまで達すると、その産業はもう死滅したと言っていいレベルになったと言えます。

 

具体例で言うと、司法書士さんがやる会社設立サービスは4)と5)の間、税理士さんの税務申告は限りなく6)に近づいていると言えます。

 

会社設立は、昔は300万〜1000万の資本金+多額の諸経費がかかっていたので、なんとなく登記を代行する司法書士さんも多額の報酬を請求しやすかったのですが、今は、資本金は1円でもOK、登記もパソコンを使えばほぼ無料でできるようになったので、「会社設立ごときに無駄なお金を使うのは情弱」みたいな流れになっています。ただ、自分で登記をするとなると専用のカードリーダー等が必要になるので、一回しか使わないシステムに数万円払うくらいなら、と、司法書士さんに依頼するのです。司法書士さんは、登記代行のサービスに追加して、会社の規模や業務内容に合った定款を作ってあげたりして付加価値をつけているのです(もしくは登記代行は無料にして顧問契約につなげるとか)。

 

税務申告は、freeeというクラウド会計ソフトができてしまったので、申告代理業務だけを見ると税理士という仕事はほぼ死滅しています。じゃあ何であんなに稼げている税理士さんが多いかというと、彼らは税務相談や経営コンサルで付加価値をつけているのです。帳簿をつけて税務申告をするだけしかできない税理士さんの価値はもはや相当低いところまで来ていると言えます。

 

1980年代くらいにさかのぼると、会社の経理部には大企業でなくても何十人も人がいて、決算期には皆電卓と帳面だけで必死こいて作業をしていた(上記でいう1)のフェース)のですが、今は一人か二人でOK(二人にしているところは一人だと使い込みをしてしまうという理由でそうしているに過ぎず、本来は一人で十分だったりします)になっています。

 

その時まで振り返って考えると、「仕事需要のトレンドが変わったポイント」はたくさんあったと思うのです。昔はただただ正確にそろばんを弾ける職人のような人が重宝されていたのですが、今生き残っている税理士や経理担当者は、そういったタイプとは別のタイプでしょう。

 

AIというフレーズを聞くと魔法のような変革が一気に起きるように錯覚してしまいますが、冷静に考えれば上記1)〜6)の変化の一つのステップに過ぎないのです。

 

弁護士も、昔は図書館に行って判例を調べて、手書きで起案をしていたのですが、今は全てパソコンでできるので、10ページちょっとの準備書面のドラフトなら数時間で出来上がってしまいます。弁護士業務は上記3)と4)の間のフェーズにあると言えますが、弁護士の業務(リサーチ、法令解釈、聞き取り、証拠収集と事実認定、方針決定、書面作成、法廷での手続き進行)のそれぞれにおいて考えると電子化・自動化の進行状況は全く異なります。

 

弁護士の知的作業の中心をなす、法令解釈(主張の組み立てと要件事実)と事実認定(証拠を事実主張に結びつける作業)の二つを例に取ると、前者は将棋(特に詰将棋)、後者は囲碁に近いロジックを使うので、後者よりも前者の方がはるかに早くコンピューターに取って代わられると予測できます。「仕事需要のトレンド」はこういう分析をすると見えてきます。

 

上記インタビューで新井さんが回答しているのは、AIを導入すると弁護士の仕事は4)のフェーズに入るので、ただリサーチや起案をするだけのアソシエイトは大量解雇になりますよ、と言っているに過ぎません。個人が自分でソフトウェアを買って本人訴訟をする6)のフェーズに言及しているわけではありません。

そうすると、弁護士の中でも勝ち残るグループと廃業するグループに分かれるということになりますし、個々の事務所の経営という観点から見ればむしろ利益を増やせるところも出てくるはずだ、ということになるでしょう。

 

もう一つの話題である「お金の流れ」については、長くなったので次のエントリにまとめて書くことにします。